エレクトロ・スウィング合作 の振り返り
先月投稿した「エレクトロ・スウィング合作」の振り返り記事です。
なんやかんや投稿からもう一ヶ月も経っちゃいましたね。既に記憶が抜け始めてますがなんとか思い出しながら書いていきましょう。
■Phase0: 映画館で見る音MAD
2023年1月、都内某所にて「映画館で見る音MAD」の第一回が開催されました(主催はR.M.さん)。
試験的な運用ということもあり参加者数は10名前後と、イベントと言うよりは小規模オフ会くらいの温度感。
その名の通り「映画館に流したい音MADを各々持ち寄って流しちゃおう」という趣旨のイベントだったんですが、これがまぁとても良い体験で……
▲上映風景。試写室なのでキャパは40席くらい。
スクリーンサイズはシネスコ相当で約124インチ。
■没入感への意識
「複数の人間が一同に会して音MADを見る」という特性上、体験としてはnerdtronicsに近い。
しかしあくまで会場は映画館。クラブとは異なり落ち着いて座って鑑賞する空間となると、当然その特性に適した動画がより強く突き刺さるもので……
「キグルミ惑星」「Paprika In The Underworld」「さびれたせかい」等、シリアス寄りの動画群の没入感がとにかく凄かったんですよ。
動画を見るという行為しか許されない真っ暗な空間。
作品の世界観や空気感、あるいはシネマティックな演出がより強く引き立ち、その動画の世界にとにかく引き込まれる。
■連続した動画再生が生み出すシナジー
また、これらの動画は各々が意図したセットリストの順に流されるため、空気感の近い動画が連続して流れることで生まれるシナジーが十二分に発揮される訳です。
音MAD的な文脈では「シリアス→崩し」の流れが定番ではあり、この会でもその流れは何度が行われて確かに面白かったのですが、それ以上に「シリアス→シリアス」の連続でどんどん音MADの世界に潜っていけるような感覚が素晴らしく、脳が痺れるような体験を得られました。
没入感の高い音MADをシームレスに流すことで音MADの世界へより深く浸りたい。
これが「エレクトロ・スウィング合作」を開催するに至った初期衝動の源流ですね。
■Phase0.5: モッシュレースの衝撃 (2023.1.27)
odykさんがディレクターを務め、複数の音MAD作者が映像制作に参加したことで話題となったモッシュレース。
自分も漏れなく衝撃を受け、「自分も何かやらなければ!!!」と生じる焦燥感。好きなぼく見つけようぜ。
かくして、モッシュレースから受けた衝撃の勢いそのままに企画書を仕上げ、数時間後には「映画館で見る音MAD」サーバーへ共有。完全に衝動だけで動いて退路を潰してますが、兎にも角にも企画が本格的に立ち上がります。
▲動画内容もそうですが、それ以上に熱量に当てられた形ですね
■Phase1: 企画立案
第一回「映画館で見る音MAD」終了後に雑談する過程で「第二回、第三回と開催したい」との構想がR.M.さんの中にあることは聞いていたので、当然それに向けて動きます。
となると、当然「映画館で流すこと」を前提としたものに仕上げたい。
■フォーマット
合作フォーマットのベースとしては「ローファイ・ラップ調音MAD合作」を踏襲。
自身としてもやり慣れた手法であるとともに、後述する「没入感重視」の観点では各々の判断で選曲してもらった方が尺や素材との相性等で調整が効きやすいためです。
▲MIXTAPEの方も企画段階から関わってたので思い入れが強いです。
■コンセプト
Phase0の項で述べたように、今回の合作で最も重視したのは「没入感」。
映画館での上映を前提としたこともあり、各作品の雰囲気や世界観を重視した音MADを連作で流すことで「音MADの世界に没入する」体験が出来る合作を目指すことに。
■なぜ、エレクトロスウィングなのか
ぶっちゃけ半分くらいは自分の好みです。……が、当然何も考えていない訳はなく。
前述したローファイ合作ではややダーク寄りになった印象を受けたため、今回は差別化の意味合いも込めて「やや明るめなシリアス」へ寄せたい。
かつ、テクニカルな台詞合わせも重要なキーであるため早くはし過ぎたくない。となるとBPM120前後のミドルテンポが望ましい。
……と前提条件を詰めていくと自然と音楽ジャンルも絞られてきます。
その中で、当時好んでよく聞いていた「私の得意は…」がエレクトロスウィングだったのを思い出す。これじゃん!
▲ということでエレクトロスウィングになりました。
■Phase2: 制作
■映像について
ローファイ合作もそうでしたが、今回も明確に「映像編集は拘り過ぎなくてOK」の旨を大前提としてお伝えしていました。
従来型のメドレー合作はとにかく映像編集がリッチで制作カロリーが高い!
それ自体は素晴らしいことなのですが、映像編集の密度が上がれば上がるほど長尺音MADの制作が難しくなってしまう訳で。
合作コンセプトとして「没入感」を最重要視した手前、動画自体の尺はある程度長くあってほしい。となると映像編集を気にせずに伸び伸びと作ってほしい。という訳で明記しました。
▲実際に招待用のNotionに明記した内容
上の画像を貼り付けてから思い出したかのように追記しますが、映画館で上映する前提の合作なので解像度はシネスコで指定しました。見慣れない解像度過ぎる。
■リファレンス
下記動画郡をリファレンスとして提示。
「少女☆歌劇 レヴュースタァライトの音MAD」の原曲はエレクトロスウィングではありませんが、本合作で目指す方向性に限りなく近かったため理想形として提示していました。
※エレクトロスウィングの音MADとしては「有沢さんとデート」が有名ですが、シリアスさを重視したかったため意図的に外しています。
■Phase3: MIX
なんやかんや*1*2*3ありつつも提出物が揃った段階でセトリを組んで音声まとめ(MIX)と動画まとめ。
例によってこの辺りの作業は全部自分でやってます。
ローファイ合作の時と同様、尺やBPM、感情等の情報をリストアップして、
感情の動きを最重視しつつ音楽的な繋がりが成立するセットを組んでいます。
……が、初っ端の1パート目に4分の長尺動画を組み込むのは中々に挑戦でした。
映画館での上映やライブ公開など、リアルタイムで見る分には長くても大丈夫なんですが、最終的に動画投稿することを踏まえると一般的なメドレー合作的なセオリーから大きく外れた選択だったと思います。
というか全体的に尺が長い!!没入感を重視したので当然ではあるんですが分かりやすく伸びている。
ローファイ合作が10パートで22分だったのに対して、こっちは8パートで25分ですからね。人数が減ってるのに尺が伸びている。どういうこっちゃ。
実際長尺のお陰で没入感は抜群に上がったと思うんですが、ここまで1パートが長い音MAD合作は他にないと思います。自分自身ここまで長い音MADを作るのは初めてでした。(たぶん)
■Phase4: 上映
映画館での上映を大前提とした合作なので当然上映します。
■裏テーマについて
今回裏テーマとして行ったのは「参加者特権の付与」です。
具体的には「合作の完成品を」「初見の感動を味わいつつ」「映画館で見られる」ようにしました。
■どういうことだってばよ
当たり前ですが、従来型の音MAD合作では各参加者同士の担当パートや制作物や進捗状況などが見える状態で作業を進めることになるかと思います。
それはそれで先行して見れる参加者特権として言えるかと思いますが、どうしても初見の感動は薄れてしまう。
だったら参加者自身以外の制作状況が一切見えない状態で進めちゃえばいいじゃん!
ということで。
各参加者ごとに専用のチャンネルを設け、制作状況は全て個別でやり取りする形式に。
全ての情報を秘匿したので、参加者各位には選曲や素材選出も含めた一切の情報が見えない状況で進めてもらいました。
小規模合作、かつ非メドレー合作だから出来るやり方かなとは思いますが、この方式により非参加者の特権である初見の感動を味わうことが出来るようになります。
Note:
進捗等も含めて他社の状況が一切見えない状態となってしまうので、参加者側でのモチベーション維持等が従来型合作と比較するとやや難しいかも?とは感じました。また、他の人の状況を把握することで出来たはずの
・被りの防止
・不足している要素の保管
・良い表現を自身のパートに取り入れる
・前後のパートの繋ぎ調整
・参加者同士でのアドバイス
等々が出来なくなるデメリットもあるため、導入するかどうかはメリット/デメリットを考慮の上で判断すると良いかなと思います。
■参加者特権
合作への招待は、主催の我儘に付き合ってもらっている面が多分にあります。
とあれば、せめて参加者には「この合作に参加して良かった」と思ってもらいたい。
前述の仕込みで初見で見てもらうための準備は整った。あとはそれを最上級の環境で届けるだけ。
ということで「映画館で見る音MAD」へのゲスト参加という形で招待させてもらいました。
あいにく予定が合わず来られなかった方もいましたが、来てくださった方には満足いただけて感無量でした。うれし~~~~
日程がニコニコ版の投稿1週間前だったので、文字通り「関係者向けの試写会」として上映することが出来ました。
■おまけ
■進行スケジュール
この辺は普通の合作と大きく変わらないと思います。
映像にコストを掛けないため、音声締切と映像締切の期間は意図的に短くしています。
・2023年1月 企画検討
・2023年2月 メンバー招致
・2023/5/21(日) 素材・原曲選び〆切
・2023/6/18(日) 音声〆切
・2023/7/09(日) 映像〆切
・2023/7/XX(日) 音声纏め、映像纏め締切
・2023/8/XX(X) 試写会・動画投稿
※試写会の実施が8月初旬→8月末に延期となったので後半の予定は全体的に後ろ倒しになってます。
■参加者の招待について
呼びたい人は沢山いたのですが、企画の特性上「オフで会ったことのある人 / 会うことにさほど抵抗のなさそうな人」「地理的に映画館まで来れそうな人」などの条件に合致する人を軸にお呼びしていました。
台詞合わせに重点を置いた合作はまだ続けたい思いがあるので、今回お呼び出来なかった方々は次回以降で是非お呼びしたいな……と思っていたりします。
■otomad-groove構想について
ローファイ合作の振り返り記事にてotomad-groove構想について触れていましたが、今回もマインドとしてはこの精神に則っています。
が、今回はコンピでの配信は取りやめました。
並行して音MDM天のエンディング制作を行っていたこともあり、時間が足りなかったんですね……
それっぽい理由付けとしては、本合作に関しては映像込みでの没入感でもあるのであくまで映像込みで見てもらいたいとかですね。これは今考えた後付の理由です。
■ラップ調音MADへの思い
ラップ調音MAD、良いですよね。
このタグに対しては各々解釈が異なる部分かなとは思いますが、個人的には以下のように捉えています。
【広義】連続的なシーンを元にした台詞合わせが主体の音MAD全般
【狭義】上記に加えて選曲がHIPHOP(及び派生・類似ジャンル)的な音MAD
で、ニコニコ動画上でのタグとしては広義の方で解釈して付けちゃって良いのかなと思います。ラップ自体も手法であってジャンルではないですからね。
……これは単に自分自身の都合でしか無いんですが、サブ垢MADの人やそのフォロワーに代表される台詞合わせ主体の音MADを包括して付けられるタグが現状無いんですよね。
かなり感覚的なタグなので厳密な線引は出来ない(し、しない方が良い)と思いますが、非HIPHOP的な選曲であっても、空気感やマインドに「ラップ調音MADらしさ」を感じられる動画に関してはこのタグが付いていてくれると嬉しいなぁ……と。*4
とはいえタグ自体は誰でも自由につけ外しの出来る機能なので、特段「こうしてくれ!」と押し付けたい訳では無いです。むしろ極力介入せず、各々の赴くままに流れていってほしい。
■おわりに
今回の合作を通して、MIXTAPEやローファイ合作とはまた異なった趣向の台詞合わせ型音MADの魅力を皆様にお伝え出来ていれば何よりです。
音MADと言うとどうしても「おもしろ動画」「YTPMV的な音作りや徹底した映像同期」「人力VOCALOID」等の面が強く印象に残りがちですが、こういったタイプの音MADの可能性もまだまだあるんだぞと。
まだまだ開拓出来る余地は大いに残されているかと思うので、今後もinterestingな音MADを作っていければと思います。
今回この合作コンセプトに共感して作品を仕上げてくださった参加者の方々、
またこの合作を最後まで見届けてくれた視聴者の方々、
この振り返り記事をここまで読んでくれている酔狂な(?)方々、
皆様本当にありがとうございました!!
おわり。